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Writing and Directioning

新スタンダードを探る 大人系音楽番組

流行タレントを知らないと学校や職場で「バカにされる」とか「会話に入れない」とか、テレビはそんなために見るものですか? 時々「アートやカルチャーは娯楽と違う」という制作者もいますが、娯楽はいつから“おふざけ”になったのでしょう?趣味講座番組の種類が増え楽しみ方も多様化しているように、今どきの大人はホントはいろんな音楽をテレビにも期待してるハズ。新しいジャズ、ミュージカルソング、海外のヒットソング、数多のエスニック、クラシック・・・、イカした手法で番組化して、埋もれたままの視聴者を掘り起こしてほしいものです。

放送文化, Mar. 2005

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「音楽番組は流行らない」と言われて久しい。確かに、70~80年代に人気を博しだ“ベストテンもの”が絶滅して以来、世間が沸き立つような超高視聴率音楽番組は未だに現れてはいない。しかしながら、ここ1年余りの番組を振り返ってみると、主に深夜帯で、大人の視聴者を意識して粘り腰で試行錯誤を繰り返していると思しき番組をいくつか見ることができる。それらの番組の根底にある作り手の意図はいったい何なのだろうか?

ベストテン終焉から十数年

80年代に茶の間を熱くさせた『ザ・ベストテン』(78~89年、TBS)や『夜のヒットスタジオ』(68~90年、フジ)の終焉以来、長らく“低迷期”と言われ続けてきた音楽番組。

音楽バラエティー『HEY! HEY! HEY!』(94年~、フジ、月曜、夜8時)や『新堂本兄弟』(01年~、フジ、日曜、夜11時15分)、チャートイン歌手がメインで出演する『ミュージック・ステーション』(86年~、テレ朝、金曜、夜8時)のような堅調人気番組も生まれてはいるが、いずれも若いアーティストの登場が多い。30~40代前後の中高年層がゆったりと楽しむには無理な面のある“にぎやか”な番組だ。

特異な存在は『ミュージック・フェア21』(64年~、フジ、土曜、夕方6時)だ。表にあるような高視聴率こそマークしないものの、放送開始から40年にわたる超長寿音楽番組である。夜の時間帯の放送であったのが、01年に夕方に移行してからもなお、長年培ってきた“ヒットチャートに左右されず良質の音楽をたっぷり聴かせる”スタンスを押し通している。

このような状況下で、ここのところ大人の視聴者を意識したと思われる音楽番組が次々と制作されている。

夢・音楽館』(NHK総合、木曜、夜11時15分)、『僕らの音楽』(フジ、土曜、夜11時30分)、『ミューズの音楽』(テレ東、日曜、夜10時54分)などは、深めの時間帯で、出演者が音楽と真摯に向き合い、生演奏したり真面目に語ったりすることによる視聴者の心に迫る手法で、渋く健闘している。視聴率はいずれもヒトケタの後半で今のところはドングリの背比べながら、それでもジワジワと着実にファンを得ている感じである。

今なぜこの時間帯に、このような手法のものが時を同じくして登場したのだろう? 各番組の作り手たちがこだわっている部分にスポットを当て、その秘密に近づいてみたい。

「音楽の普遍性を追究」ミュージック・フェア21

-開始時は音楽番組百花繚乱-

ここ10年ほど音楽バラエティー人気が続いているが「テレビ史的にみると、決して珍しくも新しくもないんです」と、フジテレビのエグゼクティブ・プロデューサーの石田弘氏は言う。長寿番組『ミュージック・フェア21』(開始時『ミュージック・フェア』)を「ディレクター時代からだと30年余、プロデューサーとしても約23年」担当し続けているベテランだ。「この番組は、当時流行っていた音楽番 組からバラエティー的な要素や音楽以外の要素を外して、いい音楽を格調高く届けようじゃないか、というところから始まったんです」

皇太子ご成婚(59年)以来、テレビが急速に一般家庭に普及し、各局の放送も軌道に乗ってきた60年代、音楽番組は百  花繚乱。梓みちよ「こんにちは赤ちゃん」や坂本九「上を向いて歩こう」が生まれ た『夢で逢いましょう』(NHK)、ザ・ピーナッツの『シャボン玉ホリデー』(日テレ)があり、ヒット曲歌手が一堂に揃う『ザ・ヒットパレード』(フジ)もありといった具合だったのだ。

ところが70年代になると、オリコン・チャートなどによるシングル売上げがレコード業界を動かし始め、音楽番組も大きく変化した。レコード購入者やリクエスト応募者が10~20代中心になったことから、視聴率重視の民放では、80年代終わり頃まで、若手人気歌手を重視した番組が主流に。しかし、そんな風潮の中、「外国にスタンダードがあるように、日本にもスタンダードがあっていいんじやないか。打ち込みが流行ったり、アコースティックが復活したり、音楽のテイストは時代時代で変化しても、生き続ける音楽はあるはずと考えて番組を続けてきたわけです。もちろん塩野義製薬さんの理解あってのことですが」(石田氏)

-世界の音楽ショーに-

取材した04年11月下旬時点で、番組の出演者総数はとうに5千人を突破。しかもその1割は海外のアーティストというのも特筆すべきだろう。「昔は『アンディ・ウィリアムズショー』(NHK、66~68年)のような海外番組も結構あった。うちも初代司会者が越路吹雪で、ジャズやシャンソン、カンツォーネなんかも取り上げてたね」(石田氏)

出演者は、この番組用にアレンジされた曲を、その曲にふさわしい編成楽団の生演奏で歌う。しかもレコーディング並みのマルチ録音で、だ。80年代にオバサマ族を熱狂させた、かのフリオ・イグレシアスは83年の初出演時、本格的な収録に驚いて、以後来日の度に「出演したい」と連絡してきたほどだったそうだ。

やがて90年代に入り「ベストテンもの」が姿を消し、レンタルショップやパソコンの普及も重なって、若者が金を払ってCDを買わなくなってからは、「逆に中高年がポップスのコンサートに行ったり、若い頃を思い出すかのようにバンドを再結成したりして音楽を楽しむ時代になった。音楽業界も“エルダー・ミュージック”とか“J-POPスタンダード”などといって“あの頃”の曲を売り出すようになった。ひと昔前だと考えられないよ。それに、50代の小田和正や矢沢永吉、60代の加山雄三らが、持ち歌を“懐メロ”ではなく“スタンダード”として歌い続けていて、若者が彼らの歌を聴きに来ている。最近、各局が深めの時間帯でやってる音楽番組も、こういった現実を見ながら手探りしてるんだろうと思いますよ」(石田氏)

時代の波にもまれ、放送時間帯が移動しながらも、『ミュージック・フェア21』は息の長いファンと新たな30~40代の女性層らの支持を得て、今日に至っている。「今後も世代を超えたポップスファンが聴いてくれ、世代を超えたアーティストがコラボレーションする“世界の音楽ショー番組”であり続けてほしい。時代を切り取るのでなく、時代や世代を超えた音楽番組を作ってほしいね。35周年に国内外の出演者の歌唱を4枚組CDで販売したら、5万7千セットも売れたけど、今や48chマルチトラックダウンでハイビジョン対応。今後はDVD化やダウンロードを見据えての展開に期待したいです」

-コラム 音楽番組を「外側」から見ると①-

どこまでも“シオノギの顔”であり続けるには
/ 塩野義製薬広報室広告担当 栗田悟氏

『ミュージック・フェア21」が長寿番組に育ったのは“いい歌、いい音、いい映像を追究し、人々の心に残る本格的な音楽番組を作り続ける”という番組の姿勢と、弊社の先々代会長・塩野孝太郎が設けた。“常に人々の健康を守るために必要な最もよい薬を提供する”という基本方針に相通じるものがあったことが、大きな要因かと思います。シンプルかつこだわりのある照明やセット、音響技術、素敵なアーティストのキャスティングなど、満足して見ています。最近では“和田アキ子と綾戸智絵”の回が「他局では絶対ない組み合わせで歌もよかった」「息がピッタリで面白かった」などと評判でした。

現在の時間帯は視聴者に偏りがあり、理想はゴールデンでの放送ですが、限られた予算内での制作・放映であり、やむを得ないかと思います。今後は、番組のイメージに合った新たなアーティストのキャスティングを急がれて、どこまでも本格的な歌番組を続けてもらいたいです。

「30~40代女性の心に触れたい」 夢・音楽館

-夜11時台は、40代のゴールデン-

70~80年代にデビューして以来、一線で活躍のアーティストや将来性のある若手らが、毎回原則的に2~3組登場。オリジナル曲ありコラボレーションありの、質の高い“大人の音楽タイム、音楽空間”を届け始めて、この春で丸2年を迎える『夢・音楽館』。館主の桃井かおりが、あふれる愛に一滴の毒を溶かした絶妙のトークをゲストと展開するのも見どころである。「夜の11時台は40代のゴールデン・タイム。働き盛りの人が家に帰って、ゆっくり見たい時間帯、1日の家事を終えた主婦も見られる。僕も今42歳で、思いを共有できますからね。僕らくらいの世代が楽しめるエンターテインメントでありたいです」と話すのは、チーフ・プロデューサーの三溝敬志氏。

NHKでは接触率の悪い30~40代、特に40歳以上の女性の掘り起こしを目的としたドラマ、トーク、英会話といった番組を日替わりで夜11時台に放送している。“大人の女性のカリスマ的存在で、これまでこういうことをやっておらず、音楽に理解ある”桃井を起用してのこの番組は、韓流ドラマもさることながら、まさに客層に的中した形だ。

桃井の建設的なアイデアも随所に生かされている。たとえば仕込んだライトが肌の色や表情を美しく見せるだけでなく、大人っぽいムードも醸し出しているテーブル。感想からグチまで、独り言を言ったり、ゲストらとスタンディングで乾杯したりする小部屋も、彼女のアイデアで生まれたらしい。また、トークの途中にVTRを挟んだりせず、席替えで雰囲気を変えるのみ、なのも。余計な仕掛けは「小洒落ていない」と桃井は考えているようだ。なるほど、オンエアされるトークはおよそ10分ほどだから、内容さえよければ視聴者もその方が集中して聞ける。

そんな独特のトークは、歌を録ってから始まる。「桃井さんに現場かビデオを見てもらってからトーク録りです。極力彼女のアンテナを生かして、だいたい1時間から1時間半くらい。最初の30分はいわばウォーミングアップで、徐々に等身大の話が出てくる。お互いの“構え”が崩れて“本音”が出てくるのが面白い」

-世代のつながりを大切にして-

もちろんキャスティングするとき“アーティストとアーティスト”“アーティストと桃井”という、ふたつの“組み合わせの妙”を考慮している。「単にベテランと若い世代の組み合わせではなく、かつて憧れてた先輩と……例えば忌野清志郎をオリジナル・ラブが追いかけてたとか、岡村孝子がさだまさしのファンだったといったように、出演者の“世代つながり”を反映させて、見る側にもつなげていければ」(三溝氏)

若いアーティストの音楽を年配者が、ベテランアーティストの歌を若者が聴いて、どちらも感動すれば、茶の間でも世代がつながることになる、という考えだ。「極論すれば“泣ける番組”“ひたれる番組”となるでしょうね。作り手がそのツボをうまく圧すと、たとえその世代が知らなかったアーティストでも『よかった』という反響が返ってきます」もう少し数字が仲びればと思っているようだが、高橋真梨子で約8%、小椋佳&ゴスペラーズ(桃井がハリウッド撮影中で、中村雅俊がリリーフ)で6.5%といった具合に、健闘しているのは確か。「番組開始から1年半以上たって認知され、このスタイルも定着してきたんでしょう。テレビに滅多に出演しない人にも『この番組なら』と出てもらえるよう積極的に声をかけて、年末の紅白にもつながれば……とも考えています」

-コラム 音楽番組を「外側」から見ると②-

洋楽アーティストの番組出演の受け皿は…
/ ユニバーサルミュージック 岡野俊一

94年から洋楽部(当時ポリドール)で、海外レーベルのベスト盤やコンピレーションを制作しています。大ヒット作は、94年に発売したカーペンターズのベスト盤。10年間で300万枚、今も売れ続けています。今の若い人たちが買ってくれているから、この数字になってるんです。カヴァーするアーティストも多いので、オリジナルを聞きたくなるでしょう。

でも、そういう素地があっても、海外アーティストが出演できる音楽番組は限られているのが現状です。そんな中、カーペンターズを『うたばん』(TBS)がリチャードの生出演と昔の映像などを駆使して扱ってくれたり、NHK・BSが当時の彼らの背景まで丁寧に取材して、特番放送してくれたのは嬉しかった。反響もなかなかよかったし。

最近深い時間帯で海外アーティスト出演の可能性も感じられる番組が放送されるようになり、少しずつ状況がよくなりつつあるのかな、と期待はしています。スタンダードも紹介してもらえるような番組ができるといいですね。

「予定調和なしの音楽番組に」 僕らの音楽

-音楽と人となりを追究-

アーティストの生演奏と、ジャーナリスト・鳥越俊太郎氏のインタビューで、ゲストの“音楽”と“人となり”を追究する『僕らの音楽』。一見『夢・音楽館』と同様の手法に見えるかもしれないが、こちらはよりドキュメンタリーに近い。「いわゆる進行役“司会者”がいて、アーティストが順に歌ったり、トークをするというのはやりたくなかった。あくまでも“アーティストの音楽”がメインで“音楽とインタビュー”でリアリティーを追究する、今どきまっとうな音楽番組なんです」と語るのは、プロデューサーの菊地伸氏。きくち伸のペンネームで、スポーツ紙やテレビ情報誌に連載執筆、書籍も出すなど、名実ともにフジテレビ“音組”(音楽番組制作班)のキー・パーソンである。入社以来約20年、ほぽ音楽畑一筋。先の発言は『HEY! HEY! HEY!』『LOVELOVEあいしてる』『新堂本兄弟』など、音楽バラエティーをやってきた末の“本音”だと思えた。それだけにインタビュアーの選定にはかなりこだわりを持っていた。「話がコアになりがちな音楽評論家ではなく、柔らかな物腰だけどタレントでなくて、まじめなモードで話せて、でも求める言葉は難しくなく……」そんな高いハードルをクリアしたのが、鳥越俊太郎氏だった。

-予定調和は根こそぎ外して-

当初企画書に書かれていた『音楽報道番組』という文字に惹かれた、と鳥越氏。「最初に会ったとき『今まで作ってきた番組は、例えば“トーク+お笑い+音楽”で、音楽が“主”ではなかった』とか、菊地さんはいろいろ話してくれましたよ。でも目が行ったのは、企画書の表紙の『音楽報道番組』。何これ? ですよ(笑)。“ドキュメンタリーチックな音楽番組”だと分かったから、引き受けたんです」(鳥越氏)

しかし、当初はやはり現場で緊迫するシーンもあったようだ。「例えば、前フリの直後に『エンディング撮ります』と言われる。構成に沿った内容のことを話して下さいってわけ。僕は『ゲストに何も聞いてないのに、何も言えない』と言った。また、インタビューが終わってから『入りをもう一度』な んてことも。『カメラはウソをつかない。入りのシーンが必要なら、カメラをセットしてから会わせればいいじゃないか』と言いましたよ」(鳥越氏)

そういうことが当たり前の手法としてまかり通っているのが、テレビ収録の現実だったわけだ。鳥越氏の言を受け、菊地氏はスタッフに言ったそうだ。「それはやめよう。ドキュメンタリーだから」と。

-ファンでない人の歌も聴いて-

鳥越氏は、構成作家からの素案を参考にしつつ、ゲストのCDを聴き、歌詞やプロフィールなどを読み、別録りの生演奏に立ち合うかビデオを見てから、ゲストゆかりの場所でインタビューに臨む。1~1時間半録って使うのは6~7分だが「同じ世界の人だと聞けないような芸能界の常識とか、アーティスト独特のプライドとかにも、うまくズバッと斬り込んで聞いてくれる。鳥越さんとゲストの関係はとても新鮮」(菊地氏)。

確かに、槇原敬之に犯した罪状を問うたり、夫の素行が露見した直後に録りだった今井美樹には、彼からの愛の贈り物だった楽曲の話から本音に触れたり……。ジャーナリストならではの質問が毎回飛び出す。「もちろん、相手が傷つくようなことはできません。でも“傷だけどカミングアウトした方がイメージアップになる”こと、実はいろいろあるんです。個人的希望としては、いい意味でこれまでの音楽番組の常識を覆したい」(鳥越氏)

これまで、伸び盛りの若手の出演が多かったせいか、意外に若い人からの反響が多いそうだが、視聴者層拡大ももちろん考えていると、菊地氏は言う。「昔制作していた『夜のヒットスタジオDX』は、例えば五木ひろし、コリー・ハート、小泉今日子……といった具合に、ひとつの番組にいろんな人が出演した。この番組では、例えばさだまさしの回を見た人が、大塚愛も、その次のサンボマスターも……、というふうに、ファンでない人の歌も続けて聴いてはしいんです」

「ひとつ上の満足を目指して」 ミューズの楽譜

-アーティストの人生を借りる-

ゲストが、司会の川平慈英、川井郁子と共に思い出の写真や映像を見ながら、今日までの足跡を自分の言葉で語る。音楽に目覚めたときの曲なども紹介しつつ、最後に川井のヴァイオリンとのコラボレーションで締める『ミューズの楽譜』。「ゲストの音楽性や音楽に対する世界観を見せたいのはもちろん、“大人の伝記物”のようなテイストで、アーティストの人生を借りて、音楽の素晴らしさを表現したい。見終わって『面白かったね』だけでなく、もうひとつ上の満足感を昧わってもらえたら」と、プロデューサーの齋藤紀子氏。ゲストのチョイスは、「何となくですけど、30歳以上かなと思っています。世の中には若くて才能のある人たちもいますが、なかなか人生を語れませんから。『後から編集でなんとかしよう……』というのはやめようと決めています」それだけにブッキングでは苦労をしている。だが、そこにスタッフ側の新しい発見もあるのだそうだ。有名かどうかにはさほどこだわっていない様子。例えば、初回のゲスト大黒摩季を齋藤氏自身はよく知らなかったという。「不安はありました。でも、番組を通じて私白身が確信したのは『長期にわたって支持されているアーティストには、それなりのものがちゃんとある』ということ」

-コラム 音楽番組を「外側」から見ると③-

記録に残る楽曲より、記憶に残る楽曲
/ キングレコード宣伝本部チーフプロデューサー 平尾恵一郎

ワーナー・ミュージックに27年ほど、キングに来て約8年になりますが、音楽番組の変化はまさに“世につれ”ですね。駆け出しの頃は、アイドルやベストテンものの急成長時代で、会社の壁には歌番組名と歌手名を縦横に書いた大きな表が貼ってありました。番組数を数えたら37本!『紅白歌のベストテン』など純然たる歌番組から、歌のコーナーがある番組まで含めてですが。なにしろ出演したら必ず結果が返ってきましたから、皆必死で売り込んだものです。そのうちポプコン出身の小坂明子、ラジオから火のついたさだまさしなど、いろんな人が現れ、気がつけば番組出演と売上げが必ずしも比例しなくなった。レコード会社としては“ビジネスにつながる番組”がありがたいですが、持ち歌以外でアーティストのグレードを上げる番組も大切。こちらも単に“売れる”つまり“記録に残る楽曲”ではなく“長く記憶に残る楽曲”を作らなければと思っています。それは“言葉の伝わる音楽”ではないかと、私は思うのですが。

世間的な評価はさておき、その人の実力を視聴者に伝えられるなら、いい番組といえる。そして番組を見てゲストに興味を抱いた人の“次なる行動”に結びつけば、なおさら言うことなしだ。「番組を見て初めて触れたゲストのCDを買いに行くといったことだけでなく、例えば近所になくて普段行かないメガショップにわざわざ出かけたら、店員がとても親切で『今どきの、金髪の若者も捨てたもんじゃないわね』と思ったとか……。人は“動く”と何かを得るものだから、番組をきっかけに何か動きが起きてくれれば嬉しいです」

リアリティー追究で、大人の好奇心が満たされる

ひととおり話を聞いて感じた共通点は『アーティストのリアリティーを追究することで、大人(視聴者)の好奇心が目覚め、やがて知的満足をも促すような音楽番組』を、根気よく作り始めたのではないかということだ。各局、手法に違いはあれど、おおむね出演者は1~3組程度の厳選で生演奏。セットからトークまで極力“誇張”を排し、等身大の魅力や本音に迫る“良心”や“良識”に満ちた。“放送の原点”すら感じる収録なのである。

そこには、かつての『夜のヒットスタジオ』のような、総花的豪華さはない。また「今週は出るの? 出ないの?」「中継車が家のそばに来てたりして……」と手に汗握った『ザ・ベストテン』のような、ドキドキ感もない。だがその『ザ・ベストテン』についぞ出なかった小田和正が、同局で昨秋~冬放送した『月曜組曲』にはレギュラー出演したのだ。制作者側の意識の変化が、アーティストの心を動かし始めたのではなかろうか。

テレビ放送開始50年の03年、かつて『ザ・ベストテン』のプロデューサーだった山田修爾氏と話をする機会があった。爆発的人気の理由を尋ねたら「番組が成功したのは、作る側、出る側、見る側の3者が、同一方向を向いてたからだと思います」と言われた。なるほど、有線リクエスト、レコード売上げ、番組へのリクエスト葉書などの集計から出た順位による“どこでも生出演”は3者が共有できる“リアリティー”だった。テンションもかなり高い。今の音楽番組にはそれがない分、一見地味に見える。

しかし、だからこそじっくり落ち着いて見られるし、録画を繰り返し見ても飽きない安心感がある。これらの要素は、40余年続く『ミュージック・フェア21』に通じるのでは。当世流行りの“セレクト・ショップ”にも似た方法で手探りを続ける現場に、エールを送りたい。

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