LUCIE

Writing and Directioning

わたしの深イイ音楽話 -いずみホール支配人 篠原 照明さん-

1954年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業後、住友生命保険相互(株)入社。英国・ロンドンでの研修員を経て、主に法人業務に長く携わり、2010年(財)住友生命社会福祉事業団顧問に。2011年から常務理事、いずみホール支配人。

Vivace, Oct. 2012

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初めて涙した〝ステレオのレコード〟

棚の上に、約10年

篠原照明さんは、音楽を幅広く楽しむタイプ。 「子供の頃の音楽は、もっぱらテレビからでした」 酒屋を営んでいた父はハイカラで、家には早くからテレビがあった。 「小学校に入る前からです。大村崑さん主演の『頓馬天狗』とか、人気歌手の歌が聴ける『ザ・ヒットパレード』とか、いろんな番組を見てました…」

人気番組の主題歌や歌謡曲をはじめ、世界の音楽が聴けるテレビは、夢の器械だった。 小学4年生になると、ステレオもやってきた。 「足つきの木製のです。サービスなのか、レコードが2セットついてました。でも、父が棚にのせてしまったので触れなかった。当時よく聴いたのは、加山雄三さん、『夜空の星』とか『蒼い星くず』とか、エレキの音楽が好きでした。弾きたかったんですけど、父に『エレキは不良や!』言われて、許してもらえませんでした(笑)」

中学、高校と進学するにつれ音楽の幅はますます拡がり、ブラスバンドでトランペットを吹いたりもした。そして予備校生のとき、“音楽の力”を思い知る。 「家の手伝いをしてコツコツ貯めたお金で、ビクターのオーディオを買ったんです。スピーカーはSX―3、当時の人気機種でした」

木製キャビネットに最新ウーファー搭載のスピーカーで聴く、ビートルズやサイモン&ガーファンクル…。それまでのホームステレオとは格段に違う迫力の立体サウンドにびっくり。 「このとき思い出したのが、10年近く棚にのせられたままのレコード2セット、『夜空のトランペット』1枚とチャイコフスキーの『ヴァイオリン協奏曲』3枚組でした」

1日必死で勉強して疲れて、夕方、どんな音楽かと、何気なく音盤に針を落とすや、全身に衝撃が走った。 「ソロのトランペットに心奮わされ、ヴァイオリン協奏曲を聴いて涙しました。先の保証のない身分で、精神的に不安定だったせいもあるでしょうけど『音楽は、人に涙を流させるんや…』と、感動しましたね」

口は出さん、ホールづくり

昨年、現職に就いたとき、この思い出がよみがえった。 「生命保険は、悲しみの後に貧しさが来ないようにする制度ですが、日常と違うホール空間で音楽を聴いて心を癒やしたり楽しんだりしていただくことで、生活と心の両方で人を支えたいと思いました。スタッフは皆、いずみホールを愛しています。個々責任をもって自主的に仕事をしてきた積み重ね、このタスキをつなげていきたい。お客様に愛されるホールづくりの原点は、“いずみホールが好きなんや”、です」 〝お金は出しても、口は出さん〟親会社の方針のもと「スタッフが存分に働ける環境を整えるのが私の役割」と、笑顔で話す篠原さん。

ところで、原体験となったレコードの演奏者はいったい誰だったのか? 尋ねると、 「それがねぇ、まったく思い出せないんですよ。レコードもね、どこにしまったのか、見当たらなくて。今度ゆっくり、探してみますわ(笑)」

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