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コントラバス

身長約2mの巨体、コントラバスは「最低音弦楽器」。「コントラ」とは「1オクターブ下の」という意味で、オーケストラではチェロの1オクターブ下を重ねて弾いたりして、低音域に厚みや深みを出します。ダブルベースとも呼ばれますが、確かに音色が倍増します。発明された16世紀頃はネックにフレットがあり「ヴィオローネ」と呼ばれ、弦数も発達の過程でさまざま。やがてフレットがなくなり、チェロの1オクターブ下のC(ド)を出せる5本弦が、オーケストラでよく使われていました。現在は4本弦が標準的で、前述のCは、最低音弦をのばす装置「Cエクステンション」で音域を拡げて出します。持ち運びが大変だし、音がくすんで単調になりがちでソロには向かないなどと、長らく言われていましたが、戦後、アメリカのゲリー・カーの登場で状況が変わってきました。彼は「Mr.コントラバス」と呼ばれ、今世紀初頭に演奏会から公式引退するまで、たびたび来日し、録音も多数残しています。

バス用の曲は少ないので、他の楽器用の曲や歌など幅広い音楽を自らアレンジして演奏。オルガンとの名演「アルビノーニのアダージョ」をはじめ、「トスカ」「ノルマ」などオペラのアリアをバスがしっとりと歌う「オンブラ・マイ・フ」、「草競馬」「おお、スザンナ」などフォスターの名曲や黒人霊歌を収めた「深い河」など、いずれも味わい深いものです。これから初めて聴く人には、ベスト盤の「アメイジング・グレース」もお勧めです。

日本人奏者も活躍しています。池松宏は、桐朋学園大学卒業後、このゲリー・カーに師事していました。1989年NHK交響楽団に入団、1994年から首席奏者を務めつつ、精力的にソロやアンサンブルもこなし「日本で一番忙しいコントラバス奏者」と呼ばれたほど。

コントラバスはネックが長いため、弦を押さえる場所が離れていて正確なピッチで弾くのが難しいと言われますが、軽快なピッチで楽々と演奏するので、どの曲も簡単そうに聞こえて驚いたものです。しかも、ゆったりと「音の朗読」を聴いているかのよう。のびやかな高音も深みのある低音も表情豊かで、例えは、ラテンナンバー中心の「オーパ!コントラバス」の「カルメン・ファンタジー」ひとつをとっても、オペラ「カルメン」の情景がありありと浮かんでくる心地がします。

また、グノー、モーツァルト、ピアソラらのアヴェマリアを中心にした「5つのアヴェマリア」は、見事な「かな文字」を愛でているかのよう。とかく小品は軽んじられがちですが、画数の少ない字こそ表現力がものをいうことを再認識できるのでは。

池松は06年N響を退団し、ニュージーランドに移住。でも、日本によく演奏に来ているので、機会を見つけて聴くことができます。

さて、マンモス楽器のコントラバスを、コマのようにくるりと回したり、逆さにして弾いてみたり・・・パフォーマンスも加わって、目と耳の両方で楽しめるのが、フランスを拠点とするオルケストラ・ド・コントラバス。

コントラバス6挺で、オリジナル曲を楽しくまじめに、エンタテインメント性を十分に発揮しつつ演奏して、来日のたびに話題を呼びました。

本当はDVDで堪能してほしいところですが、現在は売り切り状態なので、中古ショップなどで見つけたならラッキーです! DVDの再発売か新作を期待しつつ「オケコン!」「エスカルゴ」「ベスト・オブ・オルケストラ・ド・コントラバス」などを聴いてみてはいかが。

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