LUCIE / MUSIC

Writing and Directioning

フルート&ピッコロ

オーケストラの管楽器は“木管楽器”と“金管楽器”に分けられていて、フルートは木管楽器の人気者。現在のフルートは金や銀など金属でできていますが、かつては木製だったため木管に分類されています。ピッコロはフルートと兄弟みたいなもので、イタリア語で「小型の」という意味。フルートの約半分の長さ、音域は1オクターヴ上、フルートやヴァイオリンの旋律を強める役割を担っています。指使いがほぼ同じなので、オーケストラではフルート奏者が“持ち替え”で演奏します。

現在、世界一といわれているのはエマニュエル・パユ。23歳でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席ソロ奏者となった実力者で、ソロ活動も合わせると年間の約半分は演奏会だった頃もあったほど若い頃から人気でした。リセットしようと、楽団を退団して教授職に就いた時期もありましたが、教師は向かないと判断したそうで、首席奏者として復帰し今に至っています。録音も多数あり、いずれも秀逸。

この「夢のあとに」は、ジャズピアニストのジャッキー・テラソンとのコラボレーションで全編独特の風合い。テラソンのジャスを生かした編曲と、パユのクラシカルでいて柔軟な即興が心地よく溶け合い、新しい音楽を聴いているかのようです。サンバのリズムを生かしたラヴェル「ボレロ」、ヴィヴァルディ「四季」は各楽章の主題をリズムよくショート構成、「トルコ行進曲」では部分的にバス・フルートを使ってメロディをピアノと呼応させるなど、面白い試みが随所にみられます。

なお「エマニュエル・イン・ポートレイト」なら、モーツァルトやバッハなどクラシックの名曲と、「夢のあとに」からのピックアップ曲を聴けます。

身長175cmの八頭身奏者、難波薫のデビューアルバム「フルート・レボリューション」は、収録曲がとてもユニーク。

思想家のジャン=ジャック・ルソーがヴィヴァルディ「四季」の「春」を3楽章に編曲したフルート独奏曲あり、武満徹が黛敏郎のアシスタント時代に書いた曲を指揮者の沼尻竜典が編曲したものあり、大正末期から昭和初期に宝塚音楽歌劇学校や神戸女学院で教鞭をとったヨーゼフ・ラスカのフルート曲「奈良」はたぶん日本初録音・・・といった具合。

また、「ウルトラマンシリーズ」の作曲で知られる冬木透が「帰ってきたウルトラマン」(1971~72年放送)の「MAT出動」や「戦うウルトラマン」などのメロディを生かしてフルート用に書き下ろした「帰ってきたワンダバ」も聴き応えのある曲です。

担当の宮山幸久プロデューサーは、埋もれた名曲や忘れられてる作家、日本で西洋音楽教育に尽力した教育者ら、貴重な楽譜を長年蒐集し続けている人で、独自の発想による企画選曲が功を奏したアルバムとなっています。

難波は、これら興味深いナンバーを、気負わず癖のないみずみずしい音色で演奏しています。

ピッコロのアルバムは珍しいのですが、NHK交響楽団フルート&ピッコロ奏者、菅原潤の「デディケーション・フォー・ピッコロ」は、とても幸せな気分になれます。オーボエ、フルート、ピッコロ用の曲をピッコロで演奏しているのですが、ナチュラルで屈託のない朗らかな音色で、自然に頬がほころんでしまます。ひところ、朝の起き抜けには必ずこれを流し「爽やかな1日の始まり」を味わっていたほどです。

「ピッコロ・ジャクション」は、バッハ以外は古今のピッコロ曲で、ピッコロの明暗動静、喜怒哀楽・・・いろんな表現をじっくり味わえます。

さて、「ピッコロ・フルートで楽しむオペラ」は、タイトルどおりフルートとピッコロのアンサンブルで「リゴレット」や「アイーダ」、「ランメルモールのルチア」などのオペラを10分前後のダイジェストで聴ける、極めて珍しいアルバム。

しかも、フルート奏者の工藤重典とピッコロ奏者のボーマディエという“日仏の名手”が息のあった絶妙な演奏を披露しており、まさに名場面を「耳で観ている」気分になれます。

これらのオペラが流行った19世紀、音楽愛好家たちは、オペラのフルートアンサンブルをピアノ伴奏で楽しんでいたそうです。現代人が人気映画やドラマの劇中音楽、テーマソングなどを、仲間とバンド演奏したいと思うのと同じですね。

ふたりのようなベテランになると多くの音盤をリリースしているので、個々の演奏を聴くのは難しくありません。このような「資料的価値のある録音」をライブラリーに加えると、鑑賞の楽しみが増えるというものです。

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