LUCIE / MUSIC

Writing and Directioning

ヴァイオリン

ヴァィオリンは、ヴィオラ、チェロ、コントラバスなど弓で弾く弦楽器の中で最も小型の楽器です。低音のG線(ソ)はふくらみのある豊かな音色、高音のE線(ミ)は優美で輝かしい旋律はもちろん、緊張感や哀愁など数多の感情を表現する“生命線”です。ヴァイオリンの名曲、名盤は数え切れないほどありますので、タイプの違う演奏家を紹介しましょう。

ひとつの作品を一生涯演奏し続ける人は少なからずいますが、天満敦子が20年近く演奏している「バラーダ/望郷のバラード」は、もはや彼女の代名詞的な楽曲になっています。

ルーマニアの作曲家、チプリアン・ポルムベスク(1853~1883)が、母国の独立運動に参加して逮捕され、愛する人や故郷を思って作ったといわれる究極の祈りの曲で、1992年に天満が親善演奏でルーマニアを訪れたことがきっかけで、外交官から日本で紹介してほしいと託されました。

翌年から録音や演奏を始めたところじわじわ反響を呼び始め、やがてNHKで取り上げられたり、天満をモデルにした新聞小説になったりして、初録CDもヒット。自伝的エッセイ「わが心の歌 望郷のバラード」も出版されました。

“ピアノ伴奏”と“無伴奏”の2バージョンを収めたメジャー移籍第一弾CD「Balada/望郷のバラード」には「ルーマニア民俗舞曲」や「シャコンヌ」など名曲もズラリでロングセラーになっています。

また、大地に根を下ろす大樹のような堂々の弾きっぷり、感情を超越した鎮魂旋律を紡ぎ出すさまは、神奈川県立近代美術館葉山の開館記念ライヴを収めたDVD「望郷のバラード~天満敦子in葉山2004」で。「バラーダ」を初めて公開の場(横浜市のフィリアホール)で演奏した1993年12月の映像もついていて、手放せなくなるでしょう。

なお、デビュー30年記念の最新盤には、作曲家の小林亜星が編曲したオーケストラ編バラーダが再録されている他、書き下ろし9作品をはじめ彼の作編曲28曲が入っています。小林はかなり前から天満の“隠れファン”を名乗っていましたが、演奏会場で気づかれないハズもなく、彼の作編曲がたびたび音盤に収録されて、もはや“ファン筆頭”!? これは天満用作品の総決算的アルバムだとか。

さて、演奏家の中には、筆舌に尽くしがたい道のりを歩んできた人もいます。川畠成道は8歳の時旅行先のアメリカで病気になり視力を殆ど失いましたが、不断の努力でヴァイオリニストとしてデビュー。“楽曲の魂”をすうっと導き出すかのような演奏が魅力で、たちまち話題となり人気奏者に。静かに響く音色に「心が浄められる」とか「生きてく力をもらえる」などと言い、足繁く演奏会に通う人も多く、音盤も多くリリースされています。

早いものでデビューして10年が過ぎ、ベスト盤が出ましたので、彼を初めて聴く人はまずこれからがいいでしょう。ロングセラーのデビュー盤「歌の翼に」収録曲をメインに、名作が16曲も入っています。また、ベスト盤と重なりの少ない「トロイメライ」もお勧め。これはデビュー5年目の音盤ですが、発売されたとき、深呼吸しながら新たな一歩を踏み出したかのような印象をうけたのを覚えています。「シャコンヌ」や「モスクワの思いで」なども、健康的で迷いのない伸びやかな演奏です。

独特の魅力を持った演奏家といえば、ヨーロッパで大人気だときく、フランス人演奏家のローラン・コルシアが好例でしょう。

「艶舞/ダンス」にはブラームス「ハンガリー舞曲 第1番&2番」、ドボルザーク「スラヴ舞曲 第2番」からアルベニスやピアソラのタンゴまで、古今東西のダンスにまつわるクラシカルな名曲が収録されていますが、官能をまとった郷愁が、大人の泣きどころをそっと突いてくるような音色です。

ドビュッシー、ラヴェル、マスネ、ルグラン、グラッペリら異なる趣きの作品を盛り込んだ「ドゥーブル・ジュー(二人のたのしみ)」は、音楽のカテゴリーを超越した選曲で、バンドネオンやコントラバスなど、楽器の組み合わせも多彩。ジャジーな即興のようにもきこえる演奏で、どこかミステリアスな心地よさを味わえます。好きな人は、クセになるかも!

さらにエンタテインメント的な演奏となれば、アンドレ・リュウ。学生時代にレハール「金と銀」に感動して以来、ワルツのすばらしさを世界に広めようと、自らの楽団を率いて世界ツアーするオランダ人で、日本にもたびたび訪れています。オランダの自宅は「三銃士」の一人、ダルタニアンが最後の朝食をとったと伝えられているお城で、観光名所的な存在だそうです。

演奏会では、アンドレはヴァイオリン演奏と指揮の両方をこなす「弾き振り」スタイルをとり、あでやかな衣装の楽士らが奏でる音楽に合わせて、聴衆が踊ったり歌ったりする「楽しいクラシック」を展開。「スキルの高さや巧さだけでなく、観客とのコミュニケーションを大切にしている」ためで、風船や紙吹雪なども飛び出す演出で会場を盛り上げます。

お勧めは、豪華客船で彼らの演奏を聴きながら、フランス、オーストリア、スペイン、スイスを実際に訪れるDVD「世界ワルツ紀行」ですが、今は再販待ち状態なので、これより収録曲の多い同タイトルCD(19曲収録)、また「ゴッドファーザー」をはじめとする映画音楽やオペラ、クラシックなどの名曲てんこ盛りの「ロマンチック・パラダイス」などがお手頃。

ちなみにDVDでは、セーヌ川下りをしながら「パリの屋根の下」、アルプスの雄大な自然の中で「エーデルワイス」など、旅行気分を満喫しながらのリスニングに加え、自転車レースに興じる男性楽団員たちなどのボーナストラックも楽しめます。

さて最近は、「演奏だけでなく目の保養も」と高望みするクラシックファンも「フツー」に存在するご時世になりました。

たとえば、ロシア出身の演奏家、アナスタシア。94年のチャイコフスキー国際コンクール最高位のミューズだけに、演奏会場には「今日はステージに近い」とニコニコ顔のサラリーマンらしき男性がいるかと思えば、夫婦で来ているにもかかわらず「今回は席が遠いなあ、これじゃよく見えない、ん~残念!」と冴えない顔で妻にぼやいているオジサマがいたり・・・。

圧巻の「ツィゴイネルワイゼン」や「カルメン幻想曲」、夢見心地になれそうな「タイスの瞑想曲」などを収録した「ツィゴイネルワイゼン」も、チャイコフスキーのバレエ音楽をはじめロシアの音色を堪能できる「ヴァルス・ドゥ・フルール~花のワルツ」も、優美さをたたえた情感溢れる演奏でうっとりさせるアナスタシア。演奏会はやっぱり「前の席で聴かなきゃ!?」

▲TOP